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ブルースブラザーズ |
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博士、博士、ちょっとお伺いしたいことが...
うむ、なんじゃね?
博士は『ブルースブラザーズ』という映画をご存知でしょうか。
うむ、知っておるとも。ブルース・リーとブルース・リャンの兄弟がニッポンの悪徳ジュウドウ家を懲らしめるハナシじゃろう。
全然違います、博士。それに、いったい誰ですか、ブルース・リャンというのは。
これは驚いた。君はブルース・リャンを知らぬのか。 『Gメン'75』の香港編に必ず出て来ておったではないか。 『ボキベキビキバキ』と音をたてながら胸筋を上下させていた唇の分厚いカンフー使いを覚えておらんのかね。
はぁ、ワタクシには全く記憶がありません。とにかく博士、『ブルースブラザーズ』は東洋のカラテの話などではありません。
カラテではない。カンフーじゃ。
どう違うのか、ワタクシには分りません。
不勉強もいい所じゃな。アメリカにはそういう無知な輩が多いから KARATE SCHOOL と称して韓国人がテコンドーを教えているようなところが多いのじゃろう。
あの、博士、そういうことは置いときまして、『ブルースブラザーズ』のハナシに戻りたいのですが。
じゃからブルース・リーとブルース・リャンじゃろう。
違いますって。ジェイクとエルウッドです。
おお、あれか! そうか、あっちの方かね。
あっちの方も何も、それしかありませんよ、博士。
それで『ブルースブラザーズ』がどうかしたのかね?
最近、続編が公開されたのはご存知でしょうか。
ふむ、そう言えばテレビで宣伝しておったな。確か『ブルースブラザーズ2000』とかいうタイトルになっておったはずじゃ。
はい、その通りです。
それがどうかしたのかね。
実は先日、ネットサーフィンしておりましたところ、『ブルースブラザーズ2000絶対阻止委員会』というニッポンの秘密結社のページを発見しました。ここです。
ふむふむ、なかなか面白そうなところじゃな。
はあ、そうでしょうか。正直なところ、ワタクシには理解できません。
どういうことかね。
我が合衆国は何においても世界一です。政治も経済も軍事も文化も世界一、そして当然、ハリウッド映画も世界一の面白さです。 なのになぜ彼らはその世界一の映画を阻止しようなどと考えるのでしょうか。
いや、ハリウッド映画だから阻止しようとしておるわけではないぞ。 『ブルースブラザーズ2000』が続編としてあまりに出来が悪いので、 彼らが愛してやまない正編を冒涜するものだと怒っておるのじゃ。
えっ? そういう理由だったのですか?
それくらい、ちゃんと読めばわかるじゃろう。
いえ、あの、ワタクシはニッポン語が読めませんので...
確かに、続編が正編を超える素晴らしいものになるのは極めて稀なことじゃ。 ニッポンではセブンの新作が出たらしいが、これも酷い出来のようじゃわい。
えっ、セブンの新作ですか!?
そうじゃ。ここを見るがよい。
うっ、こ、これは...
浅学な君にもワシの言いたいことは分るじゃろう。 おちゃらけた若造の隊員達、老けきったダン、そして何より、ガッツ星人の造形の醜さ。 これはオリジナルに対する冒涜以外の何物でもないぞ。 しかも制作はトウキョウ放送系ではなくニッポンTV系じゃ。 我らが神聖なセブンを、太陽熱で風呂水を湧かす器具の宣伝に利用した前科があるテレビ局などに任せてたまるものか。
ええ、あれはワタクシも観て憤慨しました。スーツ姿で満員電車に乗せられたウルトラマンに比べればまだマシな方だと自分を納得させようとも思いましたが、やはり許せません。
そうじゃろう、そうじゃろう。
おまけに、エレキングが脈絡なく二酸化炭素をしゅうしゅうと吐き始めて、それを見ていたニッポン人達が『大変だ、地球が温暖化してしまう』と大慌てするというトンデモな展開でしたし。
まったくじゃ。あの程度で地球環境が破壊されてしまうのなら、 ニッポン人達がカブキ町でビールを飲んで吐くゲップの方がもっと深刻なはずじゃ。
ワタクシなど、目白花子の『誰も知らない夜』に出てくるンノモタミ大佐を思い出して大笑いしてしまいました。
なんじゃ、それは。
えっ!? 博士ともあろうお方がンミノタモ星地球侵略特殊工作部隊隊長のンノモタミ大佐をご存知ないんですか? 博士はニッポンのあらゆる文化に精通しておられたのでは...
し、知っておるとも。ミ、ミノモンタ大佐じゃろ。ちょっと度忘れしただけじゃ。それより『ブルースブラザーズ2000』のハナシじゃったな。
...はい。
まぁ、阻止したい気持ちも判らんではないな。
でも絶対阻止委員会の活動にもかかわらず、先日ニッポンでもとうとう公開されてしまったようです。結局、彼らの闘いは負け戦だったんですね。
いや、違うぞ。そうではない。
しかし博士、現実に映画は公開されたんですから、阻止できなかったことになりませんか。
君の目は節穴かね。『ブルースブラザーズ2000』はニッポンでは公開されておらぬ。
そんなことはありません。絶対阻止委員会の構成員ですら、既に映画館で観たんですよ。
彼らが観たのは『ブルースブラザーズ2000』ではない。配給側からの広告や看板をよく見ればタイトルが全て『ブルースブラザース2000』になっておるのが分かるじゃろう。
あ、あ、あ...
やっと分かったかね。
しかし博士、これは単にニッポン語のタイトルの付け方がたまたまこうなっただけかもしれません。ニッポン人が英語の発音をきちんと表記できないのは世界的に有名な事実です。実際、ニシノミヤが本拠地の某プロ野球チームなど、ユニフォームに英語で TIGERS と書いてあるくせに『タイガーズ』ではなく『タイガース』と称しているぐらいですから。
いや、TIGERS はその通りじゃが、BROTHERS はニッポンでも『ブラザース』ではなくて『ブラザーズ』と表記されることになっておる。ワーナーブラザーズ、ブルックスブラザーズ、スーパーマリオブラザーズ、もんた&ブラザーズ、お米ブラザーズ、横山ホットブラザーズ。どれも正式名称は『ブラザーズ』じゃよ。
そういえば、確かにそうですね。
しかもじゃな、ニッポン語は濁点の有無で意味が全く違ってくる微妙な言語じゃ。 『ハケに毛があり、ハゲに毛がなし』という古事成句があるぐらいじゃからな。濁点をつけるのが定着している言葉からわざわざ濁点を取ったタイトルがつけてあるのは、この映画がホンモノの『ブルースブラザーズ2000』とは別物じゃということを暗に示しておるのじゃ。逃げ道、と言ってもよいじゃろう。試しに 『こんな駄作、ブルースブラザーズだとは認めんぞ、カネ返せ!』と文句をつけてみるがよい。怖いおニイさんが出てきて 『お客さん、勘違いしてもらっちゃ困るね。ウチでやってるのはブルースブラザース2000だよ。 ほら、よーく見てみな。濁点がないだろ? それとも何かい、あんた、勝手に勘違いしておいてウチの興業にケチつけようってのかい?』と凄まれるに違いないぞ。
と、言うことは...
そうじゃ。彼らの阻止活動は成功したのじゃよ。本物の『ブルースブラザーズ2000』は公開されておらぬ。ブームをあてこんで即席で撮ったか、大昔の似たような映画を引っ張り出すかして、紛らわしいタイトルをつけたニセモノだけが公開されてしまったに過ぎん。それを一部の者達が勝手にホンモノだと勘違いして酷評したり怒ったりしておるのじゃ。
しかし博士、'80年の方の映画もニッポンでは『ブルースブラザース』というタイトルで公開されたようなんですが。
ああ、あれもニセモノじゃ。ニッポンはパチモン天国なんじゃよ。
そう言えば、ワタクシが昨年ニッポンのベップに旅行した時に泊まった温泉旅館の大宴会場では毎晩エリック・クラプトンのディナーショウをやっておりました。長年のファンであるところのワタクシとしてはこれは見逃せないと思って出かけていったところ...
『はい、どーも。えりっく・くらぷとそで御座います』だったのじゃろう?
ええ、その通りです。ご丁寧なことに、その夜の特別ゲストはBBきそぐ と じぇーむず・ぶらうそ でした。
これで分かったじゃろう。ニッポンとはそういう国じゃ。
...ありがとうございました、博士。
うむ、わからないことがあったら何でもワシに尋ねに来たまえ。
『誰も知らない夜』 目白花子
地球を侵略するためにンミノタモ星が特殊工作部隊を差し向けた。しかし闇に紛れて着陸する直前に円盤が墜落して大破、部隊は全滅。唯一生き残った指揮官ンノモタミ大佐も重傷を負ってしまう。翌日、ひとりの少女がゴミ捨て場で、ぼろぼろのクマのヌイグルミを発見し、自宅に持ち帰った。それは動けなくなったンノモタミ大佐だった。ンミノタモ星人の外見はクマのヌイグルミそっくりだったのだ。少女の手荒い修繕で身体機能を回復したンノモタミ大佐は、ヌイグルミのふりをしながら地球侵略の使命を遂行するための隙をうかがう。手始めに少女の自宅の内部を調査。そして、あるモノを発見する。『ふっふっふっ、このンノモタミ大佐を殺さずにいたことを地球人に後悔させてやる。私は環境破壊テロのエキスパートなのだ』とほくそえむンノモタミ大佐。彼が発見したモノとは? そして彼の地球環境破壊作戦の全貌は?
カワデ・パーソナルコミックスから単行本あり。