博士、博士、ちょっとお伺いしたいことが．．．

　うむ、なんじゃね？

　実は昨夜、敬虔なクリスチャンの努めとして旧約聖書を読んでおりましたところ、大変なことに気付いてしまいました。これは聖書の信憑性を脅かし、ひいてはキリスト教の根幹を揺るがしかねない一大事です。

　ワシは別にかまわんよ。

　ええっ!? 博士はキリスト教がどうなってもいいんですか？

　ワシはブッディストじゃからな。

　はあ、そうだったんですか。リチャードギアと同じですね。

　あいつはちょっと違うブッディズムじゃがな。

　ワタクシには細かいことはわかりません。

　ふむ、そのうちエイヘイジテンプルにゼンの修行に連れていってやろう。予算が余ったら、じゃがな。ゼンはよいぞ。メディテーションを通じて宇宙の真理を会得するのじゃ。ショギョームジョーがショホームガでサトリのゴクラクジョウドはキシャオウジョウじゃ。

　それはともかく、博士。とにかく旧約聖書には大変な問題点があるんです。世界に名高き博士の偉大なる頭脳の力をお借りするわけにはいかないでしょうか。

　説明してみたまえ。

　はい。まず神が全てをお造りになりましたよね。

　神は誰が造ったのじゃ？ 神は「全て」の範疇には含まれないのか？

　では言い直します。神は、ご自分を除く全てのものをお造りになりました。

　うむ。それでよい。

　最初のニンゲンも神がお造りになりました。アダムとイブです。

　あれは南極で拾ったのではなかったのかね？

　博士、あれは別のハナシです。

　そうじゃったかの。

　アダムとイブは、３人の子供をもうけました。アベルとカインとセトです。

　それぞれ零号機・初号機・弐号機に乗るのじゃな。

　それも別のハナシです。

　そうか、このトシになると物忘れがひどくなっての。

　で、アベルはカインに殺されてしまいます。

　零号機パイロットのスペアはたくさんあったはずじゃが。クローン培養とかで。

　だからそれは別のハナシですって、博士。（しつこいぞ、ジジイ．．．）

　先を続けたまえ。

　カインはアベルを殺した罪のために追放されてしまいますが、追放された先で妻を得て子孫を残します。セトも妻をめとり、子孫をたくさん残しました。

　ちょっと待ってくれんか。その妻は誰が造ったのじゃ？

　そこなんです、問題は。旧約聖書には、カインとセトの妻の出生に関する記述がないんです。確かなのは、彼女らがアダムとイブの子供ではないということだけです。ニンゲンは全てアダムとイブから始まったのに、彼女らはアダムとイブの子供ではないのです。では、いったい誰の子供なんでしょう。

　うーむ。

　お願いします、博士。これは全世界１３８億人のキリスト教徒の人生に関わる問題なのです。

　うん、ん、ん、ん、そうか、それなら辻褄が合う。

　博士、何かおわかりになったのですか？

　君は進化論というものを知っておるかね？

　進化論ですって？ あれは神を否定・冒涜するものです。法王庁は容認の姿勢に出たようですが、ワタクシは死んでも認めません。ニンゲンは神がお造りになったものです。おサルさんから進化したなんて考えは許せません。

　いやいや、アダムとイブは神が造ったんじゃよ。

　そうです、神がお造りになりました。おサルさんの末裔なんかじゃありません。

　じゃがな、ヨメさん達は、サルから進化したヒューマノイドだったのじゃよ。

　え、そんな馬鹿な。

　しかし、そう考えると全ての辻褄が合うじゃろう。聖書に書いてあることは何も否定せずにすむし、あちこちから掘り出される猿人・原人・旧人の化石の説明もつくし、何より、ニンゲンとチンパンジーはバナナの皮の剥き方が同じであるという大きな謎も解決できるのじゃぞ。完全無欠の学説じゃ。

　．．．ありがとうございました、博士。

　うむ、わからないことがあったら何でもワシに尋ねに来たまえ。