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高崎山のサル |
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博士、博士、ちょっとお伺いしたいことが...
うむ、なんじゃね?
実はワタクシ、商店街の福引きで特賞を当てまして、先週ニッポンのベップというところに温泉旅行に行ってまいりました。
ほう、しばらく姿が見えないと思っていたら、そんなところに行っておったのか。ワシもかねがねベップを訪れてみたいと思っておったのじゃが、いまだにそれを果たせずにおる。あそこには確か10種類ほどの地獄があると聞き及んでおるが。
はい、ニッポン人は多神教の野蛮な民族ですから、堕ちる地獄もたくさん必要なんでしょう。
おいおい、君はベップで何か嫌な思いでもしてきたのかね。
いえ、混浴だというので露天風呂に入ってみたら婆さんばっかりだったとか、部屋に帰ってマッサージを呼んだら婆さんが来たとか、気分を変えようとストリップを見に行ったら婆さんが踊っていたとか、そんな些細なことで怒るワタクシではありません。
思いっきり怒っておるではないか。
ましてや、「ツイスターヘル」というアトラクションがあったので、どんな恐ろしいことが起こるのかと行ってみたら、20分ばかり待たされたあげく、そこら辺の公園の噴水よりしょぼい間欠泉が吹き上がっただけだったからといって怒るようなワタクシでもありません。隣にいたニッポン人は、待ち切れずに「はようスイッチ入れんかい!」などと怒鳴っておりましたが。
意外と短気な民族じゃのう。で、他にはどのような所へ行ったのかね。
ベップからバスに乗って、郊外にあるタカサキ山という所に行ってきました。半野生のおサルさんがたくさんいるところです。
なかなか賑やかじゃな。
売店ではおサルさんの餌を売っていて、ご丁寧なことに与え方まで指導してくれます。ここの売り子と指導員も、やっぱり婆さんでした。まったくどこへ行っても婆さんばかりで...
まだ怒っておるのかね。まぁ、ベップという街は高齢者の雇用を促進しておるのじゃろう。良いことじゃて。それはともかく、おサルさん達は餌をくれるニンゲンに馴れているのじゃな。
ええ、ニンゲンを怖れません。ただ、目が合うと攻撃してきますし、ポケットやハンドバッグに手を入れると、中の物を奪われたりすることがありますので油断は禁物です。
所詮おサルさんはおサルさんじゃのう。
いえ、博士、実はタカサキ山のおサルさん達は、高度に発達した知能を持っています。なんと彼らは人語を解するのです。
なんじゃと。ニンゲンの言葉が解るというのか。
はい、証拠の写真を撮ってまいりました。これをご覧ください。
おお、これは...
角度をちょっと変えて拡大してみます。
な、なんということじゃ。
さらには、こんなことまで書いてあります。ピンボケ気味で恐縮ですが。
ふうむ。なる程のう。
博士、ぜひ次の学会で発表しましょう。博士をバカだアホだと嘲り笑った連中を見返してやる良い機会ではありませんか。アカデミズムにまみれ、真実を見抜くことの尊さを忘れたニセ科学者どもに思い知らせてやりましょう。
いや、それには及ばんよ。
博士、なぜですか。これは科学史に残る一大発見ではありませんか。
何を言っておるのかね。こんなことは100年近く前から周知の事実じゃよ。
え? 確かに「パパ」「ママ」程度の言葉を喋るようになったチンパンジーがいたという話は論文で読みましたが、文章を解する類人猿の存在は、いまだ確認されていません。
うむ、その通りじゃ。
では、やはり大発見です。
君は「猿の惑星」という大予言映画を観たことがあるかね。
あります。
あれに出てきたおサルさん達は皆、英語を喋っておった。おサルさんは、進化の過程で英語をマスターすることになっておる。その方がなにかと便利じゃからな。ニッポン語のようなローカルな言語を学習するわけがなかろう。
では、この写真はいったいどう説明すれば...
この「おサル」というのは、ニンゲンのことじゃよ。ニッポン人のことをイエローモンキーと呼ぶのは君も知っておろう。勝手にカメラに触ったり、上ったりするマナーの悪いニッポン人観光客が多いのじゃろうて。
しかし、あのう、博士。それは人種サベツというものではないかと...
これを書いたのはニッポン人じゃ。他人種ならともかく、ニッポン人がニッポン人をモンキーと呼んでも差し支えあるまい。むしろニッポン独特の諧謔味というやつじゃよ。かつてニッポンには「私はおサルさんですから」と勲章を辞退した国鉄総裁もおったことじゃしな。
...ありがとうございました、博士。
うむ、わからないことがあったら何でもワシに尋ねに来たまえ。