タルト創世記
初めに殿は長崎においでになった。
長崎は南蛮渡来の品が溢れる地であって、タルトはそこにあり、殿はそれを食され、大変お気に召した。
殿は伊予の国にお戻りになり言われた。
『タルトあれ。』
夕べがあり、朝があった。第一の日である。
殿は言われた。
『かすてぃらの中にゆず餡あれ。上に砂糖をかけよ。』
職人はかすてぃらをつくり、その中にゆず餡を巻き込んだ。
殿はこれを見て、良しとされた。
夕べがあり、朝があった。第二の日である。
御一新があった。
殿は言われた。
『天の下は文明開化の世となった。タルトを地に芽生えさせよ。』
夕べがあり、朝があった。第三の日である。
殿は言われた。
『タルトあって銘菓となり、伊予のしるしとなれ。』
そのようになった。
殿は二種類のタルトをつくることを命ぜられ、大きな方をご贈答用とし、小さな方を一切れタルトと呼ぶこととなった。
殿はこれを見て、良しとされた。
夕べがあり、朝があった。第四の日である。
殿は言われた。
『タルトは駅の売店に群がれ。タルトは土産物となって地の上、天の大空の面を飛べ。』
鉄道が敷かれ、松山空港がつくられた。
殿はそれらのものを祝福して言われた。
『産めよ、増えよ、タルトは地に満ちよ。』
夕べがあり、朝があった。第五の日である。
殿は言われた。
『菓舗はそれぞれのタルトを産み出せ。』
一六タルト、六時屋タルト、ハタダの栗タルト、あわしま堂のタルトができた。
その他に無数のタルトができた。
殿はこれを見て、良しとされた。
殿は言われた。
『タルトにかたどり、タルトに似せて、人をつくろう。』
殿はタルトにかたどって人を創造された。黒餡と金餡と銀餡に創造された。
殿は彼らを祝福して言われた。
『見よ、伊予の国に広がるタルトを。陸路の買物客、海路の観光客、空路の出張族など、すべて命あるものにタルトを食べさせよう。』
殿はすべてのタルトをご覧になった。
見よ、それは極めて良かった。
夕べがあり、朝があった。第六の日である。
殿は第七の日にお茶を淹れ、休まれた。お茶請けは 母恵夢 であった。