博士
博士

チキンラーメン

助手
助手


助手 博士、博士、ちょっとお伺いしたいことが...

博士 うむ、なんじゃね?

助手 はい、以前、ベビースターラーメンのカルシウム含有量の謎について博士にお伺いしたことがありましたが、覚えておいででしょうか。

博士 ああ、覚えておるとも。

助手 本日、トウキョウフードストアに再入荷していたので、また買ってまいりました。今回は特売ではないのに前回と同じ99セントです。円安さまさまといったところですね。

ベビースターラーメンの画像

博士 ふむう、君はよっぽどベビースターラーメンが好きなのじゃのう。

助手 はい、ワタクシ、これを食べる度に「生きていてよかった」としみじみ感じます。これぞ至福の時とでも申しましょうか。

博士 ずいぶんと安上がりな至福じゃのう。

助手 何にしても安上がりなのはよいコトではありませんか。で、先ほどベビースターラーメンを口いっぱいに頬ばりながら、うっとりとパッケージを眺めておりましたところ、妙なことに気付いてしまいました。

博士 何かね、その妙なことというのは。

助手 以前カルシウム含有量が問題になったのは、パッケージに「1袋あたりカルシウム102mg入り」と印刷してあったことが発端だったのですが、今回買ったベビースターラーメンには、その表示が見当たらないのです。表示の場所が移動しただけかもしれないと思って、隅から隅までよく見たのですが、同様の表示はどこにも見当たりません。

かつてのベビースターラーメン
前回のパッケージ

今回のベビースターラーメン
今回のパッケージ

博士 表示がなくなったことがそんなに問題なのかね?

助手 いえ、問題というほどのことではありません。しかし、ニッポンはもう何年も前から健康ブームです。だからこそ、前回買ったベビースターラーメンもカルシウムがたくさん含まれているのをウリにしていたのでしょう。それなのに、わざわざパッケージを変更する手間暇とおカネをかけてまで、表示をなくしてしまうというのは腑に落ちません。

博士 ふむ、それはもっともじゃな。

助手 そこでワタクシ、ひとつの可能性に考えが及びました。

博士 うむ?

助手 前回の会話が、製造元である「おやつカンパニー」の耳に入ったのかもしれません。

博士 それはどういうことかね。

助手 はい、本当はベビースターラーメンに102mgなどという大量のカルシウムは含まれていないのではないでしょうか。

博士 なんじゃと、そうするとパッケージに嘘が書いてあったということにならんかね?

助手 ニッポンは官僚と企業が国民を支配する暗黒国家だそうですね、博士。

博士 うむ、それは本当のことじゃ。

助手 ならば食品メーカーは嘘でも何でも書き放題に違いありません。官僚も見て見ぬふりでしょう。

博士 しかも食品関係を監督するのは、あの悪名高きコウセイ省じゃからのう。

助手 しかし世界一の民主国家である我が合衆国では、消費者が強大なパワーを持っています。食品成分表に嘘を書くと、あとになって「健康を害したから損害賠償として4千万ドルよこせ」と裁判をおこされかねません。

博士 そう言えばワシのいとこも、包丁で髭を剃ったら顔に傷ができたので「説明書に髭を剃るなと書いてなかったから怪我をした」と包丁メーカーを訴えて、8百万ドルの賠償金を勝ち取ったと言っておったわい。アメリカンドリームというやつじゃな。

助手 ですから、さすがの悪徳ニッポン企業「おやつカンパニー」も、合衆国向けの成分表にはカルシウム0%と本当のことを書かざるをえなかったのでしょう。しかし、ニッポン語と英語の両方を読める人間が我が国にいるわけがないとタカをくくって、ニッポン国内向けのパッケージのまま輸出したのが奴らの運の尽きでした。パッケージと成分表の矛盾は、このワタクシの明晰なる頭脳が見事に見破り、連中の悪事はここに暴かれたのです。それを知ったメーカーがお得意の隠蔽工作を始めたに違いありません。その手始めが、このようにパッケージをこっそり改竄して矛盾の痕跡を消し...

博士 ちょっと待ってくれんか。

助手 は?

博士 君は矛盾、矛盾と言っておるが、パッケージに102mgとあることと成分表に0%とあることは決して矛盾しないと、前回ワシがちゃんと証明したじゃろうが。

助手 いえ、博士、その、えっと、あれが証明...ですか。

博士 そうじゃよ。極めて論理的に証明したではないか。もう忘れてしまったのかね。

助手 博士がおっしゃったこと自体は覚えておりますけれど... しかし、お言葉を返すようですが、表示が矛盾しないためにはアメリカ人がニッポン人の17倍のカルシウムを必要とするということが前提となりますから...

博士 すると何かね、君はこのワシが間違っているとでも言いたいのかね。

助手 あ、いや、そのう、間違っているとは申しませんが、今ひとつ説得力に欠けるきらいが無きにしもあらずと言えないこともないかもしれないなぁ、と...

博士 助手の分際でずいぶんとはっきり物を言う奴じゃな、君も。じゃがまあ、よかろう。確かに前回の証明に用いたデータは少なかったとワシも自覚しておる。結論は決して間違っておらぬのじゃが、君を初めとする頭の悪い連中を心底から納得させるには不十分じゃったかもしれんな。

助手 はぁ、不十分、ですか。

博士 あれからワシもいろいろと調べたのじゃよ。あらゆる文献にあたり、インターネットのサーチエンジンで検索し、エンサイクロペディア・ギャラクティカを全巻読破し、果てはバイオコンピュータを使って植物さんに質問してもみた。しかし、ワシの説の正しさを補強する新たな材料はとんと見つからぬ。

助手 そりゃそうでしょう。

博士 ふふふ、ところがじゃな、意外と身近なところに転がっていたのじゃよ。これを見るがよい。

チキンラーメンの画像

助手 あっ、これはチキンラーメンではありませんか。しかも最新のチキンとん骨味ですね。

博士 そうじゃ。ワシが子供の頃は、これをそのままボリボリと食べていたものじゃわい。

助手 ずいぶんと品のないガキ、もとい、お子様だったんですね。生でボリボリ食べていいのはベビースターラーメンだけです。チキンラーメンはちゃんと丼に入れてお湯を注いで食べるべきです。

博士 子供の頃のハナシじゃよ。それはともかく、ここを見たまえ。

カルシウム300mg

助手 えっ、カルシウム300mgですか。凄いですね、と言いたいところですけど、ふん、これもニッポン企業の製品ですからどうせ嘘っぱちにきまってます。

博士 いや、ニッシンは嘘をついてはおらぬぞ。その証拠に、食品成分表にはこう書いてある。

Calcium 3%

助手 これは我が国の消費者向けですから、信用してよいと思います。3%というと...

博士 300mgで3%ということは、100%つまり1日2000カロリーの食生活をおくる場合に必要なカルシウムの摂取量全体は

300 [mg] ÷ 3/100= 10,000 [mg]

つまり10グラムじゃな。これは前回、同様の計算で導かれた10.2グラムという値とほぼ一致するぞ。前回ワシが言ったことは間違ってはおらぬ。やはりアメリカ人は毎日10グラムのカルシウムが必要なのじゃよ。

助手 ニッポン人の17倍のカルシウムが、ですか...

博士 そうじゃよ。アメリカ人はガタイがデカイからのう。当然なのじゃよ。ふぉっふぉっふぉ。

助手 ...ありがとうございました、博士。

博士 うむ、わからないことがあったら何でもワシに尋ねに来たまえ。


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