日本語会話
「その6:警察官」で、ベルリッツ創始者の孫が書いた日本語会話集をとりあげたのですが、じっくり読んでみると実はこの本、よくある「ガイジン日本語」のオンパレードです。
上段(太字): | 英語での表現(訳はピンキィ君の夫) |
下段: | ベルリッツ氏による日本語 |
Everything was delicious. Minna oishii deshita. I wanted to go to Nikko. The traffic was bad. This evening was very enjoyable. It was a pleasure to visit your factory. It was a pleasure to meet you. Quoted from P.45,55,78,80,144,147, "Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
どれも美味しくいただきました。 みんな美味しいでした。 日光に行きたいと思っていました。 道が混んでいました。 今晩は楽しませていただきました。 楽しい工場訪問でした。 お目にかかれて嬉しく思いました。 (訳:ピンキィ君の夫) |
まあ、日本人も昔は "To be or not to be. That's a question." を「あります。ありません。あれが質問です。」と訳していたり、「らい麦畑の中の捕手」という本があったり(これは実物を見たことがあります)するので偉そうな事は言えませんが、これは会話集で、僅か10年ちょっと前のもの。そして、著者はかの「ベルリッツ」創始者の孫... 1985年当時の日本語への認識なんてこの程度だったのかと思うと、今、アメリカの街中で売られている日本語会話集は格段の進歩を遂げていますね。
私はグラマー(英文法)というのが大嫌いで、英単語の過去形も結構忘れちゃってるし、「過去完了」とか「過去進行形」とか言う言葉だけが頭の中をぐるぐるするばかりで、何も話せずにいる事が多いんです。昔、高校で英語の教師に「お前は今を生きる人間だな」とか「過去の無い女はつまらんぞ」とか言われたのを思い出しました。あっ、ちくしょう、なんか腹が立ってきたぞ。
To Shibuya station, please. Shibuya eki made, dozo. Ticket, please. Driver, to the dock, please. Full tank, please. A table near the dance floor, please. Information, please. Hold the line, please. Quoted from P.52,55,57,76,116,117, "Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
渋谷駅までお願いします。 渋谷駅まで、どうぞ。 切符を拝見します。 運転手さん、波止場までお願いします。 満タンでお願いします。 ダンスフロア近くのテーブルをお願いします。 電話案内をお願いします。 このまま切らずにお待ちください。 (訳:ピンキィ君の夫) |
「豊潤な日本語」VS「合理的な英語」を見事に現している「どうぞ」シリーズ。辞書を引いて一番最初に出てきた訳語だけを使ったり、熟語を無視すると、これに似た文章が出来上がりますが、この著者はプロの筈だ(多分)。極端な言い方をすると、終戦直後のベストセラー「日米会話手帳(でしたっけ)」が今でも一般書店に並んでいるようなものなのかも。
I haven't been there yet. Asoko-ni mada ikimasen. Have you children? Yes, we have. Boys or girls? Quoted from P.84,88, "Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
あそこにはまだ行ったことがありません。 あそこにまだ行きません。 お子さんはいますか? はい、います。 息子さん、それとも、娘さん? (訳:ピンキィ君の夫) |
でも、この著者に「これでも通じるでしょう?」と言われたら、確かに通じるんですよね。「旅行中、ちょっとでも日本語が通じれば便利だから、会話の本でも買ってみようかな。」と書店で棚を探すと一番安い本がこれだったりする(わずか$5.99)ので、困ったもんです。アメリカ人の「へんな日本語」のルーツがこれだとすると、原因はひとえに、この値段なのかも。ああっ、もしかすると私もお金をけちって、こんな過ちをおかしているかもしれない。
Happy Birthday! Otan-jobi omedeto! Merry Christmas! Happy New Year! Quoted from P.35,36, "Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
お誕生日おめでとう。 お誕生日おめでとう。 メリークリスマス。 あけましておめでとう。 (訳:ピンキィ君の夫) |
ここまでくると「365日酒が飲める歌」みたいですね。でも、アメリカ人に何か言われると、つい "Thank you" と答えてしまう私には何も言えません。ところで、「メリークリスマス」の「メリー」ってどういう意味なんでしょう?(今、辞書をひいたところ、楽しいとか、うきうきしたとかいう意味で、「あなたが楽しいクリスマスをおくれますように」の省略形だそうです。知らなかった...)。
steak suteki well done medium rare Quoted from P.43,"Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
ステーキ ステーキ ウェルダン ミディアム レア (訳:ピンキィ君の夫) |
これじゃ、ステーキじゃなくて牛刺しが出てきても文句が言えません。「えっ? な・ま、でございますか?」、「はい、生、どうぞ」といった会話が交わされている風景が目に浮かぶ。
"How do you do?" に "Fine, thank you." と答えてしまって、変な顔をされた事を思い出してしまう私。
それから、この本の表紙には、こう書いてあります。
Charles Berlitz, world-famous linguist and author
of more than 150 language teaching books, is the grandson of the founder
of the Berlitz Schools. Since 1967, Mr. Berlitz has not been connected
with the Berlitz Schools in any way.
Quoted from the front cover page of "Passport to JAPANESE", Charles Berlitz, SIGNET, USA, 1985. |
チャールズ=ベルリッツは、世界的な言語学者であり、150冊以上の言語教科書を著している。また、ベルリッツ語学学校の創始者の孫でもあるが、1967年以来、ベルリッツ語学学校とは一切無関係である。
(訳:ピンキィ君の夫) |
なんか、読んだ後でこの但し書きを見ると、「この物語は全てフィクションであり、登場する人物および場所は全て架空のもので、実在の人物および場所とは一切無関係です。」とでも言われているような感じですね。偉大な祖父を持ち、語学教育家としての名声も得たベルリッツさんとしては、ネイティブの日本人に内容をチェックしてもらうなんてプライドが許さなかったのかもしれませんね。ベルリッツ語学学校は、この著者と手を切って正解だったんじゃないでしょうか。